Thursday, December 24, 2020

片山真理「移動とは人の手を借りること、自分を変えること」 | ARTICLES - IMA ONLINE

―いまのスタジオ(群馬県伊勢崎市)に引っ越してきたのは、いつ頃ですか?

1年半前です。もともと印刷所だった建物を、DIYでリフォームしました。

―それ以前は、どんな場所で制作をしていたんですか?

少し長くなるけど、いいですか(笑)?私、もともと飽き性だからなのか、一カ所に長く住むってことができないみたいで。10代で制作を始めてから、ずっと移動し続けてきたんです。大学卒業までは、実家にある部屋の一角で、裁縫やペインティングをしていました。大学院への進学を機に茨城県の取手市に引っ越したんですが「あれ、これじゃ生活できないぞ」ってくらい、制作スペースが狭い賃貸アパート? を占拠しちゃって(笑)。でも、制作と生活がごちゃ混ぜになっていたからこそ「I have child’s feet」とか初期の作品たちが生まれました。自宅の部屋をセットアップして撮るというアイデアは、十分な制作スペースが得られない環境で、やむにやまれず出てきたものだったんです。

―なるほど。2014年以降の作品は、野外で撮影されたものも増えますね。

はい、そうなんです。2014年に初めての個展が決まるんですが、その時は新作を作る場所はおろか、ストックする場所さえもなくて困っていました。そんな時、前橋市のアーティスト・イン・レジデンスに招待してもらったんです。これで制作スペースが確保できる、よかったと思った半面、不安もかなり大きくて。こういう体なので、健常な人と同じようには生活できないから。それでも環境を変えないと制作はできない。だから思い切って、見ず知らずの土地に生活圏を移す決心をしたんです。

―環境が変わると、考え方も変わるものですか?

そうですね。小さい頃から、自分のできないことばかり意識する性分でした。あきらめをつけるのが、とにかく早い。みんなと同じように、「普通」になんでも自分でやりたい、やらないといけないって思っていました。でも積極的に外に出て行くようになってからは「自分に足りないものは補ってもらえばいい」と考えられるようになりましたね。私にとって外に出て行くことは、他人の手を借りることだから。直島のレジデンスで作った「bystander」は文字通り、直島の人たちの「手を借りて」作ったオブジェであり、写真です。そもそも自分でできることなんてタカが知れているんだから、デキる人ぶらずに、いろんな人に頼ればいいやって(笑)。

―制作順に作品を並べると、片山さんの移動の軌跡がわかりますね。

そうかもしれませんね。それまで各地を転々としたわけですが、そんな中で娘を妊娠したことがわかりました。ずっと制作のために住む場所をコロコロ変えてきたけど、次は娘のために住む場所を変えようと思いました。それで、生まれ故郷の太田市に戻ったんです。子育ても制作もしやすい駅前に4LDKのマンションを借りて、生活圏を小さくしました。

―その後、いまのスタジオに?

はい。子育てにより適した環境を探して、伊勢崎に。広くて、のんびりしてて、いいんですよ。あんなに短期間に移動を繰り返した自分が、まさか家を買ってスタジオを構えることになろうとは……って感じです(笑)。家族が増えたことで、それまでの自分が絶対にしなかった判断をするようになりましたね。

―制作の仕方も変わりましたか?

変わりましたね。手縫いでオブジェを作ることを休止して、写真に重きを置くようになったのも、制作スペースに娘がいるようになったからです。なんでも口に入れる年頃の子を、針やビーズが転がってる場所で遊ばせておくわけにはいかないし。でも最近は娘も大きくなったので、針仕事も再開するようになりました。

―いまのスタジオは気に入ってる?

思いのほか、居心地いいですね。私、ロビン・フッドが大好きだったんですけど、うちの近所には国定忠治のお墓があるんですよ。ふたりともアウトローの代表格ですよね。彼らの生きざまってかっこよくて、好感が持てます。流れ流れてそんな人の“シマ”に流れつくんだから、おもしろいご縁ですよね。

Mari’s Tools
道具や材料は、スタジオのラックに、きれいに整理整頓されている。一度決めたらずっと使うタイプだという彼女の現在の愛機は、今年の夏に購入したばかりのニコンF80。裁縫道具は、小学生の時から使い続けている。等身大のオブジェやインスタレーションまで、すべて手縫いで作るというのだから驚かされる。針、糸、ビーズや貝殻は、手芸屋さんやホームセンターで手に入るものばかり。特別なものはひとつもない。照明もシンプルでチープなものだが、充分な仕事をしてくれるのだとか。「道具や材料は特別じゃないほうがいい。誰でも使えるもので作りたい。道具や材料の珍しさが作品の価値になるようではいけない」と彼女はいう。特別なツールを使わないのが彼女のポリシーだ。誰でも彼女と同じ道具で、同じように作ることはできる。しかしそれでも失われない“特別さ”こそ、彼女の作品の価値なのだろう。

*展示情報などは掲載当時のものです

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