Tuesday, December 29, 2020

(社説)英EU合意 離脱の混迷から教訓を:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル

 「ほっとした。でも、これまでとこれからを比べると、少し悲しくもある」

 欧州連合(EU)のバルニエ首席交渉官が漏らした言葉が、長く険しかった「別れ」の過程を率直に物語っていた。

 英国が、EUからの離脱を僅差(きんさ)で選んだ国民投票から4年半。最後の手続きだった貿易協定作りが、年末の期限ぎりぎりで合意に達した。

 離脱は、今年1月に終わっていた。ただ、その後も急変を避けるためほぼ現状が維持され、年内が離脱後の協定作りの猶予期間とされていた。

 今回の合意により、年明け以降も関税ゼロでの貿易は保たれる。「合意なし離脱」の混乱という最悪の展開が回避されたことは評価できる。

 だが、この4年半に費やした時間と労力、さらに英政治の混迷ぶりを振り返ると、それだけの価値があったのか疑問を禁じえない。離脱がもたらした疲弊と分断の代償は大きい。

 EUとの円滑な貿易は続けるが、移民は入れたくないし、EUにカネも出したくない――。自国第一主義を象徴するような英国と、「いいとこ取り」は許さないというEUによる交渉は何度も暗礁に乗り上げた。英国で議会は紛糾を繰り返し、首相は2度交代し、国民は離脱派と残留派で二分された。

 1200ページを超える合意文書案によると、英国はEU規則や欧州司法裁判所の影響を受けなくなる。同時に、通関手続きが復活し、自由だった人の移動は変わる。EU市民が英国に移住するには、年収や英語力などで資格が評価される。

 「我々の法律と運命を取り戻した」とジョンソン英首相は自賛するが、この4年半を真摯(しんし)に振り返り、EUとの新たな建設的関係をめざすべきだ。

 現地の日系企業を含む世界中の関係者を懸念させ、EUを悩ませた日々を教訓に、国際秩序を守る主要国としての立場と責任を自覚してもらいたい。

 平和と繁栄のために国境をなくす理想を掲げて発足したEUは、さらなる離脱を招かないよう結束を固めねばならない。

 EUは今年、コロナ禍で痛んだ経済を立て直すため、総額7500億ユーロ(約95兆円)の「復興基金」創設を決めて「欧州連帯」を示した。一方で、域内の経済格差や「法の支配」を分配条件とすることをめぐり、意見の対立も顕著になった。

 欧州委員長は、合意後の会見で「すべての欧州人にとって、英離脱を置いて前へ進む時が来たと思う」と述べた。「英国なきEU」が前進するためにも、国家主権を超えた地域融合の歩みを止めてはいけない。

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