英ＥＵ通商合意、企業の反応まちまち－望まない変化への懸念も - ブルームバーグ

英国と欧州連合（ＥＵ）が通商協定で合意したとはいえ、英企業は多くの困難な変化を迫られそうだ。

　　４年余りの交渉を経て合意がまとまり、12月31日以降に新たな関税と輸入割り当てが課される最悪のシナリオは回避された。企業にとっては新型コロナウイルス禍による打撃を抑制することに集中する余地が広がるという点で、歓迎すべきことだ。

　　それでも英国のＥＵ離脱はさまざまな業界に大きな混乱をもたらすことになりそうだ。通商合意が各業界にとって何を意味するのかをまとめた。

自動車

　　英自動車メーカーの昨年の売上高は計約790億ポンド（約11兆円）、従業員数は計約18万人だった。各社はこれから、何年も保留していた生産能力と新モデルへの投資計画を進めるかどうかを決めなくてはならない。

　　フランスのグループＰＳＡ傘下のボクソールは英ＥＵ離脱の詳細がより明確になるまで、エルズミアポートの工場への追加投資を承認するかどうかに関する決定を保留していた。合意の遅れで既に打撃を受けた企業もある。 日産自動車はイングランド北部での電気自動車（ ＥＶ）モデルの生産を断念した。

　　バーミンガム大学経営大学院のデービッド・ベイリー教授（ビジネス経済学）は、合意は良いニュースだとして、関税を概ね回避できるほか、ＥＶメーカーは新たな要件に対応する十分な時間を得られ、ＰＳＡがボクソールへの投資を拡大する可能性が高まると説明した。

Industry Under Threat

Number of cars produced annually

Source: SMMT 2019 data

製造業

　　英国内総生産（ＧＤＰ）の約10％を占める製造業は新たな関税の脅威を免れたものの、大量の事務手続きと新たな規制に見舞われている。

　　認証基準の相互承認は合意に盛り込まれず、製造業者は英、ＥＵ両市場の当局から自社製品の承認を別々に受ける必要がある。さらに両市場での仕様が異なれば、２つの異なる生産プロセスが必要となり、コスト増につながりかねない。

　　国境では、英ＥＵ離脱後の適切な通関書類を持たないトラックが深刻な交通渋滞を引き起こす懸念が浮上している。製造業者は業務のデジタル化への長年の投資で、ジャストインタイムの供給体制に依存するようになった。そうした体制により在庫コストは縮小できるものの、出荷が遅れれば生産プロセスと業界全体に問題が生じることになる。

小売業

　　関税という厄介な問題は英小売業者にとって最大の懸念だった。不況時に利益率の低いセクターで輸入コストが上昇すれば、消費者に転嫁せざるを得なくなるためだ。英国の食料生産は国内消費分の半分程度にすぎず、輸入食品の大部分がＥＵ由来で、特にテスコやＪセインズベリーなどのスーパーマーケットチェーンにとっては深刻だ。

U.K. Food Origins

About a quarter of food consumed in the U.K. hails from the EU

Source: Defra data as of 2019

　　関税以外でも、小売業者はさらなる通関手続きに必要なコストと人員配置に起因する多くの新たな障壁に直面しており、消費者への価格転嫁につながりかねない。

医薬品

　　製薬業界は不必要な重複やコストを避けるため、英・ＥＵ間の相互承認に関する合意を長く呼び掛けてきた。そうした合意の少なくとも一部は実現し、医薬品製造施設の検査は両地域で有効となった。

　　ただ、今回の合意には業界が求めていたバッチテストの相互承認に関する言及はない。つまり、英国で医薬品に関する安全性試験を行ってもＥＵ域内で販売できるようにするには再検査が必要になるかもしれず、時間とコストの負担が増える恐れがある。

グラクソ・スミスクラインの研究開発センター

サービス業

　　サービス業は英経済の80％を占め、情報技術（ＩＴ）や法律、会計、保険、コンサルティング、建築などの幅広い活動で構成されている。

　　英国にとってＥＵは最大のサービス輸出市場で、専門資格が自動的に認められなくなれば痛手だ。企業がＥＵ加盟国でサービスを提供する権利を今後得るには、一段の役所手続きが必要になる。

原題：
Brexit Deal Hands Business a Mix of Relief, Unwanted Change (1)（抜粋）

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