核開発制限の見返りに制裁を解除する「イラン核合意」の再建協議が正念場を迎えている。経済制裁の解除を求めるイランは保守強硬派が、核兵器開発を断念させたい米国はイスラエルが足かせとなる中で、月内の妥結を目指す。交渉の成否は来月のイラン大統領選はもとより、バイデン米政権の対北朝鮮政策にも影響を与えそうだ。(カイロ・蜘手美鶴、ワシントン・金杉貴雄、パリ・谷悠己)
◆イランで保守強硬派が伸長
「急ぐ必要がある」「今月末までノンストップ協議だ」。イラン核合意再建に向け4月に再開されたウィーンでの協議で、欧州連合(EU)の当局者たちは今月上旬、妥結への期待と焦りを次々と表明した。
米国の合意復帰に向け、EUなどが仲介役となる「間接協議」を1カ月以上も断続的に続けてきた米国とイラン。焦りの理由は、6月18日にイラン大統領選が迫っているからだ。
イランは保守穏健派のロウハニ大統領のもと2015年に核合意を結んだものの、トランプ前米政権が18年に一方的に離脱。制裁で打撃を受け実利を得られなかった。このため反欧米を掲げる保守強硬派が伸長、昨年の国会議員選で全議席の約75%を占めた。
2期目を終えるロウハニ師は大統領選に立候補できない。国際的な孤立を避け経済発展を目指してきた穏健派は選挙前に制裁解除で合意し成果をアピールしたいが、譲歩しすぎれば強硬派に攻撃されるジレンマを抱える。妥結できないまま強硬派の大統領が誕生すれば、米国との合意は困難になるばかりだ。
◆米国の経済制裁どうなる?
合意再建に向けてイランが求めるのは、経済制裁の全面解除だ。トランプ前政権は「最大限の圧力」政策で核開発関連だけでなく、金融や軍事関係など幅広く制裁対象を拡大した。崩壊寸前まで経済が追い込まれたイランにとって、特に石油の輸出解禁は譲れない。
一方、米国は、イランの核兵器取得の阻止が絶対条件。イランは核合意の上限を大幅に上回る濃縮度60%のウラン製造を開始、核兵器開発に着実に近づいている。このためイランに核合意の制限順守に戻るだけでなく、濃縮作業で得たデータや高性能遠心分離機の廃棄も求める。
協議の行方は、バイデン米政権の対北朝鮮交渉の試金石にもなる。イランと核合意再建でまとまれば、北朝鮮は同様のプロセスで段階的な制裁解除もあり得ると期待し、協議に前向きになる可能性があるからだ。
◆「協議を遅らせる」指摘も
ただ、対北朝鮮と異なるのは米国の同盟国イスラエルの存在だ。イスラエルは敵対するイランへの制裁解除は自国の脅威になると反対。資金がパレスチナ自治区ガザのイスラム主義組織ハマスなどに流れ、テロに使われることも懸念する。だがイランが今のまま核開発に突き進めば、対立激化と中東の核軍拡を誘発し最悪の危機を迎えかねない。
そこで米国は、まず制裁の一部解除で核合意に戻り、残る制裁解除をてこにミサイル開発制限やテロ防止などを含む「より長く強い」(ブリンケン国務長官)新合意を目指すとしているが、道のりは厳しい。
カイロ・アメリカン大のラーエド・ガッザウィ教授は「米国は核関連の制裁だけ解除し、ほかは残したい。一方、イランは全制裁解除を求めている。この差が協議を遅らせる」とみる。
ウィーンでイラン側ホテルと米国側が待機するホテルは通りを挟みはす向かいにある。わずか100メートルの距離だが、顔を合わせない両者の深い溝を象徴している。
イラン核合意 2002年に発覚したイランの核開発計画を受け、15年7月に国連安全保障理事会の常任理事国(米英仏中ロ)にドイツを加えた6カ国が、イランと結んだ合意。核兵器保有を防ぐためにイランが核開発を制限する見返りに、米欧などが制裁を解除する内容。トランプ前米政権は18年5月に合意を離脱して制裁を再発動させ、イランは対抗措置としてウラン濃縮度を段階的に上げるなど合意破りを繰り返している。
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