Monday, March 14, 2022

地方移住かなえる条件…地域に溶け込み信用武器に - 読売新聞オンライン

 昨年9~12月、東京・有楽町駅前にオフィスを構えるNPO法人「ふるさと回帰支援センター」を主な舞台に、移住した人、移住希望者向けの面談やセミナーの様子などを7回にわたりルポした。センターが首都圏在住者を対象として昨夏に行った調査によると、移住先として“地方”を希望している人は全体の12.3%で、首都圏では推計309万人に上るという。とはいえ、田舎での新生活はイメージしにくく、不安を抱く人も多いだろう。どのような準備をすればよいのだろう。

 東京交通会館8階の広々とした、ふるさと回帰支援センターのオフィスには、42道府県2市がブースを構え、移住希望者の相談に応じたり、地域限定のセミナーを開いたりする。あるセミナーを取材した。題名はズバリ、「地方移住のリアル」。まず、手始めに自分が何をしたいのかを確認してもらう。例えば、釣りやキャンプといった趣味を充実させたいのか。お金も重要だ。年収はいくらほしいのか。では、何をして稼ぐのか。農業で生計を立てたいのか、地元企業に勤めたいのか、起業したいのか、転職しないでテレワークで働くのか。子どものために移住を決断する人もいる。子育てや教育環境がどうなのかを調べる必要がある。

 “リアル”と銘打つだけに、「田舎はきっとこうだ」との思い込みにも容赦ない。例えば、都市部に比べて、地方は仕事が楽だとあなたは思っていないだろうか。そこは、「地方だから仕事が楽!ということはない」とバッサリ。客が多い店舗は従業員が多い一方で、客が少ない店舗は従業員が少ない。つまり、従業員1人当たりの負荷は変わらないのだ。「仕事が大変なのはどこも一緒」というのが結論だ。

 就農を目指す移住希望者も多い。農業をテーマにしたセミナーでは、厳しい現実も突きつける。そもそも、だれもが農家になれるわけではない。必要なものは三つ。(1)家族の理解(2)自己資金(3)農家の助力が得られるのか──だ。謎解きをしよう。農業はサラリーマン時代よりも収入が確実に下がる。農繁期には家族の手助けも必要だ。だから、家族の理解が欠かせない。「自己資金はないが、就農したい」はアウト。最初に農業法人や個人の農家で技術を学ぶ間も、生活費は必要となるからだ。借りるという選択肢もあるが、農地や農機具の購入費用も必要になる。最もハードルが高いのが農地探しかもしれない。移住者という“よそ者”に、先祖伝来の農地をホイホイと貸したり売ったりしてくれる農家はよっぽど奇特だ。農家を含めて地域の人の信用を得て、初めて農地を確保できる。肉体労働だから、体力に自信がない人には不向きだ。

 ここまで書いて、今回の企画で取材した高橋雄基さん(41)夫妻のことが頭に浮かんだ。東京都日野市から昨年2月、山梨県笛吹市の山奥の小集落に移り住んだ。新居は築120年の古民家。東京の会社に籍を置いたまま、テレワークで働く。「野菜作りで自給自足の生活をしたい」が移住動機の一つ。移住後は、「郷に入っては郷に従え」の教えをきちんと守った。村の行事やお祭りの準備、水路をメンテナンスする地域の活動に加わり、集落になじんだ。移住から半年もしない間に、自宅近くの900平方メートルの耕作放棄地を借りることができた。朝夕は、甲府盆地を眼下に望む畑で、大根、レタス、ジャガイモなどの世話に精を出す。農作業をしていると、「それ、やり方違うぞ」と通りがかりの人がかまってくる。

 取材したほかの移住者も、地元の消防団に入るなど、地域に溶け込む努力を欠かさない。よそ者なりの、地域への気遣いも移住者には欠かせないのだ。

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